海王星のさらなる魅力
前回の記事で海王星の発見と名前の由来についてお伝えしましたが、今回はその魅力をさらに深掘りします。 海王星は気性の激しい海の神ネプチューンにふさわしい激しさとアドリア海を思わせる青く美しい惑星ですが、この惑星の魅力はこれだけではありません。
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海王星と冥王星が衝突しない不思議
海王星は太陽から約45億440万Kmも離れており、公転周期は約165年と非常に長く、1846年にこの惑星が発見されてから公転を確認できたのは、たった1度きりです。
自転軸が公転面に対して29度傾いているため、海王星には季節がありますが、なにしろ一年が165年あるので ひとつの季節の長さは40年もあります。 このように長い季節と長い一年を持つ海王星の軌道ですが、その外側をまわる冥王星の軌道と交差しています。
しかし、この2つの軌道は決して交差することはなく、2つの天体が衝突することはないのです。
その理由は、2つあります。
軌道要素の違い
海王星と冥王星の軌道は楕円です。特に冥王星の軌道は横長の楕円になります。そして、海王星の軌道平面に対して約17度傾いているため、冥王星が太陽にもっとも近づく時(近日点)でさえ、冥王星は海王星の軌道の外側にあります。このため、冥王星の軌道が海王星の軌道を横切るように見えても、傾斜の分だけ海王星の軌道面の上か下に大きく離れているのです。
2:3共鳴
冥王星が太陽を3周する間に海王星が2周します。つまり、2つの惑星は互いに「決まったリズム」で公転しているのです。 音楽で例えてみましょう。2拍子と3拍子でリズムを取るカスタネットがあったとします。この2つのカスタネットのリズムは、連続するうちにリズムを揃えるようになります。同じことが海王星と冥王星の軌道で起きているのです。
これを平均運動共鳴といいます。冥王星と海王星の軌道の場合は2:3共鳴です。 この共鳴の結果、冥王星が海王星の軌道に近づくタイミングでは常に海王星が別の位置にいるように調整されるのです。
こうした共鳴は太陽系に多く見られる現象で、天体が安定して共存するための「自然のルール」の一つといえます。
海王星の環に光る自由・平等・博愛のアーク
海王星にも環があります。非常に暗い物質で構成されているため、地球からは見えません。環は1989年ボイジャー2号によって発見されました。環は全部で5つあり、海王星に近い順から順に、ガレ環、ルヴェリエ環、ラッセル環、アラゴ環、アダムズ環となります。
アダムズ環には、5つの明るいアーク(弧)があり、その名前は「フラテルニテ」、「エガリテ1」、「エガリテ2」、「リベルテ」、「クラージュ」といいます。面白いことに登場する「フラテルニテ」、「エガリテ」、「リベルテ」はフランス革命の標語「自由 (liberté)・平等 (égalité)・友愛 (fraternité)」に由来しています。太陽系の天体はシェークスピアや詩人のアレクサンダー・ホープの作品上の登場人物の名前に由来していることが多い中、フランス革命の標語が使われています。
海王星は1846年、2人のフランス人天文学者によって発見されました。この時期のフランスの知識層には、フランス革命の理念である「自由・平等・博愛」が普遍的な価値観として浸透していました。こうした背景があり、5つのアークの名前にはフランス革命のエッセンスが反映されているのです。
極寒の地でも常に若々しい衛星、トリトン
ギリシア神話に登場するトリトンは、海の神ポセイドンの息子で、半人魚の姿をしています。
トリトンはほら貝を吹き、波を立てて敵を混乱させたり、嵐を鎮めて船乗りを救ったりする力を持っています。この神話の名を冠した海王星の衛星トリトンは、直径約2700 kmで月より小さいのですが、16個ある海王星の衛星の中では最大の衛星です。
トリトンは公転の向きが海王星の自転とは逆向きという特異な「逆行軌道」を持っています。この軌道は、トリトンがかつて海王星の引力によって捕らえられた天体であることを示しています。また、月の19倍近い速度で海王星を5.9日で一周しています。この高速逆行軌道により、海王星の重力がトリトンに潮汐力を与え、内部に熱を生じさせています。
潮汐力とは、言い換えれば「変形を元に戻そうとする力」です。海王星の及ぼす重力はトリトン全体に均等にかかるのではなく、場所によってかかる度合いが違います。この度合いの差によってトリトンは変形し、この変形を元に戻そうとする力が生まれます。これが潮汐力です。
トリトンの表面は窒素とメタンの氷で覆われていますが、この内部熱によって火山活動が活発です。窒素やメタンを含む氷の火山からは、高度8 kmにも及ぶ噴煙が確認されており、これによってトリトンの地表は常に更新されています。このため、トリトンの表面は比較的「若い」状態を維持しているのです。
海王星も天王星と同様、ただの氷の惑星で地表活動はとうの昔に耐えたと認識されていました。
しかし、惑星形成時期に発生した熱が今なお内側に残っており、それが高速は自転速度と相乗して結果的に地表に強力なジェットストリームを発生させています。
そして海王星を周るトリトンは、海王星から受ける重力の影響で氷の火山を噴火させています。
太陽光から受ける熱によって大気の活動が活発になるという従来の概念は、海王星とトリトンによって覆されました。こういう常識の覆しがあるから宇宙、サイエンス、そして物理は面白いのです。