地球に生命を運んだ天王星と海王星

私たちが生きていられるのは、地球に豊富な水と大気があり、それらが太陽の熱エネルギーによって循環しているからです。さらに、太陽のエネルギーは植物を育み、食物連鎖を通じて私たち人間へと取り込まれています。
しかし、地球が誕生したばかりの頃、そこには水も生命の源となる有機物も存在しなかったと考えられています。では、水や有機物はどこからやってきたのでしょうか?
地球に水を供給した小惑星
地球の生命は海で生まれました。
海は雲をつくり、雲は雨を降らせ、さまざまな生物に水を与えてきました。
実はこの水、宇宙から地球にやってきたと考えられています。
小惑星が地球に水を与える

地球の水の起源は諸説ありますが、その1つに「小惑星起源説」があります。
41億~38億年前の間に、水を含む炭素質コンドライドを呼ばれるタイプの小惑星が地球に衝突し、地球に水をもたらしたのです。この時期は「後期中爆撃期」と呼ばれています。
一回の衝突が広大な海をつくったわけではありません。
水を含んだ隕石が雨あられと地球に降り注いだのです。そして爆撃が終わり、衝撃が落ち着くと地球には海ができました。
彗星が水を運んだという説

彗星が地球に水を供給したとも考えられています。
水を多く含む氷の彗星が地球に衝突し、水の原子を地球に与えたというのです。
しかしこの説には問題があります。実は地球の水のD/H比と彗星の水のD/H比が違うのです。
D/H比というのは、重水素と水素の比率のことです。

小惑星と彗星の違い
小惑星は、太陽系が形成された時期に、惑星になりそこねた残骸でそのひとつひとつは岩石でできた小さな天体です。
一番大きな小惑星ケレスの直径でも月の1/3しかなく、ほとんどが直径数km~数百km程度の岩の塊です。
火星と木星の間にあり、楕円軌道で太陽の周りを楕円軌道で回りながら、ほとんど変化しない安定した状態を保っています。
彗星は、カイパーベルトやオールトの雲といった太陽系の外縁部に存在している天体で、太陽の重力に引かれて長い楕円軌道を描きながら太陽の周りを回ります。カイパーベルトは、太陽系の海王星の軌道より外側に広がる領域で、ここにはたくさんの氷と塵でできた小天体が存在しています。彗星はその中でも比較的大きな氷やガスを含んだ天体で、太陽に近づくとその熱によって氷が蒸発し、尾ができます。
水のD/H比

D/H比というのは、重水素と水素の比率のことです。
水のD/H比(重水素/水素比)とは、水分子(H₂O)に含まれる重水素(D:デューテリウム)と普通の水素(H)の割合のことです。D/H比は天体ごとに異なり、天体が形成された場所や環境によって変化します。
▼地球と太陽系天体の水のD/H比
地球の水 | 1.558 | これを基準とする |
小惑星(炭素質コンドライト) | 1.4 ~ 1.6 | 地球の水とよく一致 |
彗星 (例:67P/チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星) | 5.3 | 地球の水よりかなり高い |
彗星(例:ハレー彗星) | 3.0 | やや高いが地球の水に近い |
地球の海水のD/H比は約 1.558 × 10⁻⁴(水素10万個に対して重水素が約15.58個)です。
ハレー彗星など一部の例を除き、地球の水のD/H比に近いのは小惑星の水です。
このことから、最近では「小惑星が地球に水をもたらした」という説が有力になっています。
参考ソース
https://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2018_111_01/111-1_41.pdf
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/nng/article/news/14/4990/
https://www2.kek.jp/imss/news/2021/highlight/0602AsteroidRyug
なぜ地球には水があり、火星にはないのか?

太陽系は約46億年前に誕生し、その約1億年後に地球が形成されました。水星・金星・地球・火星は同じ「岩石惑星」に分類され、ほぼ同時期に生まれましたが、水が豊富にあるのは地球だけです。
その理由の一つが「磁場」と「重力」です。

地球の中心部(コア)は溶けた金属でできており、これが強い磁場を生み出しています。磁場は地球の周囲にバリアを作り、太陽風や隕石の衝突から守ってくれます。また、地球には水や大気を引き留めるのに十分な重力もあります。
一方、火星には強い磁場がなく、重力も地球の約3分の1しかありません。そのため、40億〜30億年前に存在していた水や大気は、太陽風によって宇宙へと吹き飛ばされてしまいました。
これが地球には水があり、火星にはない理由です。
水を持つ太陽系の他の天体たち
地球以外にも水の痕跡が確認されている天体はあります。
例えば、木星や土星の衛星には氷が豊富に存在し、さらに天王星や海王星といった氷惑星、その外側に広がるカイパーベルトの天体にも水の原子が多く含まれています。

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その理由は、それらの天体が太陽から遠く離れているためです。太陽風の影響をほとんど受けず、太陽系が誕生した当時に存在していた水の成分が今も保持されていると考えられています。
生命を運んだのは誰か?
天王星と海王星が生命を運んだという説
地球に生命が誕生した理由は、まだ完全には解明されていません。
しかし、一説によれば、天王星と海王星が軌道を変えたことが生命誕生のきっかけをつくったと考えられています。
初期の太陽系では、天王星と海王星の位置は現在とは逆でした。さらに、当時は太陽系の惑星同士は互いに近い距離にいて、太陽の周りを公転していました。
巨大惑星の木星と土星はその強大な重力の影響を付近の惑星に及ぼしていたわけです。

木星と土星の強大な重力の影響を受け、天王星と海王星の軌道が乱れ、最終的に現在の位置へと移動しました。この大規模な変動の際、周囲にあった氷の小天体群と衝突し、その破片が隕石となって地球に降り注いだのです。(後期重爆撃期)
これらの隕石には、水とともに有機物が含まれていました。
有機物は地球上でアミノ酸へと変化し、やがて生命のもととなる細胞へと進化していったのです。
(この考えは、生命と水が地球の外から来たと考える「ニースモデル」や「パンスペルミア説」に基づいています。)
ニースモデル
巨大惑星の軌道移動により、太陽系外縁部のカイパーベルトやオールト雲にある天体が内側に向かって散乱され、地球に水や有機物をもたらしたという仮説。
パンスペルミア説
地球上の最初の生命は宇宙から飛来した微生物の胞子によって誕生したという仮説。 「パンスペルミア」はギリシャ語の「種まき」の意味。
生命と水は地球の外から運ばれた
今のところ、水は地球の原始時代に小惑星や彗星によってもたらされ、生命は惑星移動によって地球の外縁部から飛来した隕石によってもたらされたというのが有力な説となっています。
しかし、地球の水や生命の起源には、まだ多くの謎が残されています。
宇宙の壮大な歴史の中で、無数の偶然が重なり、私たちが存在しているのだと考えると、あらためて地球が奇跡の星であることを実感しますね。